結論から言えば本作は良質なファンムービーであり、テレビアニメのファンであれば見て損は無いと言ってもよい。一方で完全にテレビアニメの視聴者向けに作られており、映画ではじめて「幼女戦記」に触れるものにとってはやや不親切な作りになっていることは否めない。
本ブログの記念すべき第一号の記事が本作であることには残念ながら理由はない。たまたまブログを始めようと考えた後に最初に見た劇場版アニメが本作であったというだけのことである。ストーリーの根幹についてのネタバレは避けるつもりではあるが、基本的には自身のアウトプットの練習のために始めたブログなので細かい部分でのネタバレはあり得るのでご容赦いただきたい。
幼女戦記に初めて触れる方へ
本作はもともとはネット小説をもとにしたライトノベルを原作としている。筆者はアニメは視聴済、書籍版・漫画版は共に既刊読了済であるが、WEB版については未読である。
幼女戦記をよく知らない方が本作を見るにあたって最低限知っておいたほうが良いことは以下の通り。
- 主人公(ターニャ・デグレチャフ)は現代日本の中年男性サラリーマンからの転生者
- 主人公は神(存在Xと主人公は呼んでいる)によって過酷な人生を送ることを強いられている
- 部隊は1920年代の欧州によく似た世界(ただし魔法が存在)
- 主人公の属する帝国(ドイツにあたる)は周辺諸国と緊張状態
- 映画開始の時点で協商連合(北欧)と共和国(フランス)は帝国にすでに敗北
- メアリー・スーの父親は協商連合との戦争中に主人公に殺されている
なお、本作に興味を持たれた方はまずは漫画版を手に取ることをお勧めする。原作小説はミリタリーや政治経済の専門用語も多く使用されておりライトノベルとしてはかなり難解な部類にはいる。漫画版は小説版に準拠しながらも非常にわかりやすく描かれており、コミカライズとしてはトップクラスといって良い出来なので機会があればぜひ読んでいただきたい。
素晴らしいアクションシーン
本作のアクションシーンのレベルは極めて高い、特に終盤、ティゲンホーフ防衛戦における主人公とメアリー・スーとの一騎打ちのシーンでは、市街地を縦横無尽に飛び回るシーンを付けPANをふんだんに用いて迫力満点に描かれており、一見の価値ありといえる。
日常芝居においてもヴィーシャが地図を張り出すといった何気ないシーンでもおっとなるようなカットがあり楽しんで見ることができた。
どうしてこうなった
今回の劇場版は小説版の4巻にあたる部分を映像化したもので、連邦(ソ連)による宣戦布告からモスコー(モスクワ)襲撃、ティゲンホーフ防衛戦、サラマンダー戦闘団結成までが描かれている。
映画ではたびたび見出しのセリフが使用されている。もともとテレビアニメ版でも主人公がたびたび使用していたセリフであるが、今回は主人公以外の複数の人物も様々な場面で使用している。そして登場人物がこのセリフをつぶやき、頭を抱えるたびに戦争が泥沼化していく。
どうしてこうなったか、その理由は本編開始早々、物語の舞台の数十年後のシーンでテレビ版でも登場していたある人物によって理由が説明されている。彼は帝国は何を誤ったのかと言う質問に対して、それを人が恐怖あるいは感情を持つ故ではないかと述べている。
本作に登場する重要人物は何人かの例外を除いては基本的に理性的な人物に描かれている。そのような人物の中で作戦よりも私怨を優先するメアリー・スーは、敵である主人公はおろか味方であるドレイクからも感情に左右される愚か者として疎まれている。だが、理性的な彼らの思惑を外すのは画面には映らない数多くのメアリー・スーである。戦争を最も愚かな行為と断ずる主人公は、モスコー襲撃をあまりに徹底的にやりすぎたがゆえに連邦のメンツを潰し、結果として連邦との早期停戦の選択肢は失われ、帝国は泥沼の総力戦へ突き進んで行くことになる。
このようなことを考えながら感想を書いていると頭の中で「パリは燃えているか」がリフレインして止まらなくなってしまったので、ここで今回の感想は終わりとする。