若月圭太のアニメ映画感想ブログ

劇場版アニメ・アニメーション映画の感想を中心としたブログ

『きみと、波にのれたら』感想 これは喪失の受容の物語ではない

感想(ネタバレなし)

 映画『きみと、波にのれたら』のCMや予告編をみたものは大半が、ああこれは、死んだ恋人のことが忘れられないヒロインが主人公の物語で、恋人の死を乗り越えたときに現れた恋人は去っていくのだろうと考えるでしょう。

 だがそれは間違いです。もちろん、本作にもヒロインが恋人の死を受容する瞬間は訪れますが、それはこの映画のテーマが喪失の受容であれば有り得ないタイミングで訪れます。

 ではこの作品のテーマは何かと言えば、たとえ苦難にあっても前にすすむ意志を持ち、努力し続けることの大切さ、そして誰もが誰かにとってのヒーローになりえるということです。

 こちらの記事は映画『きみと、波にのれたら』の感想記事となります。ネタバレありの表記以降は本作のネタバレが入りますのでご注意ください。

 この記事を読まれた方は記事の最後ではてなブックマーク、ブログへの読者登録、twitterのフォローのいずれかをしていただけると幸いです。ブックマーク、フォローおよび読者登録は記事下の該当のボタンをそれぞれクリックすることでできます。

作品紹介とあらすじ

f:id:wakatsukikeita:20190624220932j:plain

 本作はサイエンスSARU制作によるオリジナル長編アニメーション映画です。主要スタッフは監督は『夜明け告げるルーのうた』『夜は短し歩けよ乙女』の湯浅政明、脚本は『リズと青い鳥』『若おかみは小学生!』の吉田玲子が担当。キャラクターデザイン・総作画監督をテレビアニメ『フリップフラッパーズ』の小島崇史が務めています。

 声優陣は主人公の雛罌粟(ひなげし)港を片寄涼太、もう一人の主人公向水ひな子を川栄李奈、港の妹洋子を松本穂香、港の後輩の川村山葵を伊藤健太郎がそれぞれ演じています。

 サーフィンが大好きなひな子はかつて住んでいた海沿いの街に引っ越した直後、住んでいるマンションが火事となり、そこで消防士の港に助けられる。恋人となったひな子と港は幸せな時を過ごすが冬のある日、港は海で救難活動中に水死してしまう。悲しみにくれるひな子はある日、港と過ごした日に歌った歌を口ずさむと水の中に港が現れることに気づいた。

感想(ネタバレあり)


映画『きみと、波にのれたら』予告【6月21日(金)公開】

  本作が喪失の受容の物語だと誤解されるのは結構な割合で上記の予告編やCMのせいなのですが、実は本作においてひな子は一度ひな子の前に現れた港がクライマックスで成仏する瞬間においてもひな子は港の死を受容しているわけではありません。

 彼女が真に港の死を受容するのはラスト直前、港と死の直前のデートで訪れた場所を再び訪れた際に思いがけず一年前に港が残したメッセージに触れたことにより起こります。実は予告におけるひな子の号泣シーンはこのシーンなんですよ。

 このシーン、予告編ではあたかも港の死から立ち直れないひな子のシーンのように描かれていましたが、実は全く違って、この号泣によってひな子は港の死を真に受け入れ、前にすすむことができるようになるわけです。『宇宙よりも遠い場所』の未読メールシーンを連想させるこのシーン、完全にエピローグに入っていたところに不意打ちで来たこともあり、非常に胸の熱くなるシーンでした。

 登場人物の描写でちょっと違和感をもったのは山葵と洋子、まず港の後輩山葵ですが、彼、最終的には洋子と付き合うことになるわけですが作中では港の死後にひな子に告白してその場ではひな子に有耶無耶にされた後、エピローグではいつのまにか洋子と付き合っているという微妙な描かれ方をしています。これ、ひな子が山葵を明確に振るシーンを追加するか、そもそもひな子にほれるという設定を削った方がよかったんじゃないでしょうか。

 で、一番気になったのが洋子、港の妹である彼女は登場人物の中では最も港と共に過ごした期間が長い人物ですが、作中では全くと言っても良いほど港の死を悲しんだり落ち込んだりする様子がありません。一方で港の死後早々に、港が生前いつかは喫茶店を経営したいという夢を持っていたこと理由に喫茶店で修業を始めたりと、この時点では死の受容がメインテーマではないと気づいていなかったこともあり、ある意味でひな子以上にこの子本当に大丈夫かと心配になるような描写がされていました。正直、いつ爆発するかとひやひやしながら観ていたのですが、特に爆発することもなく終わりました。いや、だったらそんな不穏な描写しないでくださいよ。

 作画は全体的にクオリティが高いです。特に今回はサーフィンが重要な要素を占めることもあり、ラストのビルからの落下シーンも含め波の描写には気合が入っています。ただ、港の操る水の描写についてはその水準自体は高いのですが、あまりにも過去作の『夜明け告げるルーのうた』のルーの操る水の描写とあまりにも似ているので、もう少し本作ならでは表現をして欲しかったかなと思いました。

 人物作画については『ルー』や『夜は短し歩けよ乙女』に比べると王道ラブストーリーということもあり時折コミカルな描写が入ることもあるものの、他の湯浅作品と比べるとリアルよりの動き方をしています。特に序盤の火事のシーンの消防隊の動きはすごくそれっぽくて印象に残りました。

まとめ

  本作ではたびたび人生が波にたとえられます。本作のタイトル『きみと、波にのれたら』は、無論、二人が共に波乗りをすることを指してもいるのですが、過去の港がかつて助けられた彼のヒーローのような人物になりたいと願い努力したこと、現在のひな子は港のような確固とした自信に裏付けられた何かを得たいと願ったこと、そして、港とひな子の二人が共に未来を歩んでいきたいという、かなわなかった願いをを表しているといえます。

 

よろしければはてなブックマークやTwitterのフォロー、ブログの読者登録をお願いします。ブックマーク、フォローおよび読者登録は記事下のボタンをそれぞれクリックしてください。 

Brand New Story

Brand New Story

  • GENERATIONS from EXILE TRIBE
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes