若月圭太のアニメ映画感想ブログ

劇場版アニメ・アニメーション映画の感想を中心としたブログ

英題 Weathering With You の真の意味とは『天気の子』感想

 

【期間限定・アクセスコード付き】小説 天気の子 (角川文庫)

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  英単語のWeatherには動詞として「(嵐や困難を)乗り越える」という意味があります。つまり Weathering With You とは、「貴方とともに困難を乗り越える」といった意味になります。ここから、本作は主人公とヒロインが何らかの危機を二人で乗り切る話なんだなと予想することができます。その予想は間違ってはいません。しかし、本作を最後まで観たものは Weathering With You に対してもう一つの意味を見出すことになるでしょう。

 で、気になる本作の評価ですが、文句なしに今年のアニメーション作品の中で一番です。『君の名は。』と同レベルのエンタメ作品としてのレベルの高さを保ちながらも、テーマ性、作家性については『君の名は。』よりも高いレベルでまとめており、『君の名は。』が好きな人であれば間違いなくお勧めできる作品となっております。

 セカイ系という言葉があります。定義はいろいろですがここでは主人公とヒロインの問題と世界の危機が直結しており、それ以外の国家や社会に関わる者の描写がほとんどされない作品群を指す言葉として定義します。本作は新海作品としては『雲のむこう、約束の場所』以来の正統派なセカイ系作品(『君の名は。』がセカイ系か否かについてはここでは述べません。)であり、新海誠のセカイ系に対する議論の最終回答でもあります。

 

 こちらの記事は映画『天気の子』の感想記事となります。ネタバレありの表記以降は本作のネタバレが入りますのでご注意ください。

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作品紹介とあらすじ

 本作はコミックス・ウェーブ・フィルム制作によるオリジナル長編アニメーション映画です。原作・監督・脚本は『君の名は。』『秒速5センチメートル』の新海誠、キャラクターデザインを『君の名は。』『心が叫びたがっているんだ。』の田中将賀、作画監督を『かぐや姫の物語』『思い出のマーニー』等で原画を担当した田村篤が務めています。

 声優陣は主人公の森嶋帆高を醍醐虎汰朗、ヒロインの天野陽菜を森七菜がそれぞれ演じています。

 家出をして東京にやって来た帆高は、怪しげなライター須賀に拾われ、彼の事務所で働くことになる。ある日、必ず天気を晴れにする能力を持つ少女陽菜と出会った帆高は2か月前から雨が降り続ける東京で陽菜の弟の凪と3人で晴れ女の仕事を始めることになるのだが・・・

ここからネタバレがあります。


映画『天気の子』スペシャル予報

小ネタ集

 本作はすでにCMで告知されている通り、作中に白戸家のお父さんが登場するシーン(2つ目はわからなかった)が登場するなど各所に小ネタがちりばめられています。そのうちのいくつかを紹介

エンジェルビル

 陽菜が晴れ女となるきっかけとなった場所に建つ廃ビルは代々木会館がモデル。ドラマ『傷だらけの天使』の舞台となったエンジェルビルのモデルでもあります。まもなく解体の予定で、物語の舞台となる2022年にはもう存在しないはずです。

求人バニラ

 物語開始早々にバニラのアドトラックの曲が流れます。曲もアドトラックもそれっぽいパロディではなく本物が。

声優名をもじったキャラが登場

  凪のガールフレンドとして登場するカナとアヤネ、それぞれカナは花澤香菜が、アヤネは佐倉綾音がそれぞれ演じています。なお、アヤネのフルネームは花澤綾音だということが劇中であかされているため、カナのフルネームは佐倉香菜と推測されます。

 ちなみに花澤香菜は過去の新海作品では『言の葉の庭』のヒロイン雪野百香里の他、『君の名は。』にも出演、佐倉綾音はZ会のCM『クロスロード』のヒロイン海帆を演じています。

意外なアニメのキャラクター?が登場

 本作では晴れ女の仕事の依頼人としてコスプレイヤーからイベント当日の天気を晴れにすることを依頼されるのですが、そのコスプレイヤーの姿がキュアブラックとキュアホワイト。それもぱっと見わからないほど原作に寄せた姿で登場します。ちなみになぜかこのすばのアクア(のコスプレイヤー)もこれまたアニメに寄せた姿で登場しています。

『君の名は。』との関係

 本作の一番の小ネタは『君の名は。』とのリンク、実は本作には『君の名は。』の登場人物が多数登場します。具体的には瀧、三葉、四葉、勅使河原、早耶香の少なくとも5名が作中に登場し、瀧と三葉については主人公との会話シーンも存在します。

 作品の舞台となるのは劇中の描写から2022年の夏頃と推測されますが、瀧と三葉が再開したのはこの年の春。作中で2か月あまり雨が続いているとの描写があったので、この世界では瀧と三葉の再開からそう間もないうちから東京ではやまない雨が降り続いているということになります。

Wethering With You の真の意味

 基本的には『君の名は。』を面白いと思った人にとっては本作も面白いだろうし、会わないと思った人は本作も合わないでしょう。

 本作のコメディ部分の多くを担うのは陽菜の弟の凪先輩こと凪です。彼は小学生にもかかわらず複数のガールフレンドを持つプレイボーイで、彼とガールフレンドの年齢離れしたませた言動がギャグとして機能しているのですが、こういった部分や本田翼演じる夏美の言動を気持ち悪いという人はおそらく今回も一定の割合でいるでしょう。

 さて、晴れ女として活動する陽菜たちですが、やがて晴れ女はその能力を使いすぎると人柱として消え去る運命にあるということが判明します。東京で記録的豪雨が降った夜。陽菜は人柱となり消え去ります。翌日、晴れ渡った空のもとで帆高は陽菜が晴れ女となった場所へ向かい、陽菜を取り戻すことを願います。陽菜は人柱となることを回避しますがその結果、東京は雨が降り続ける街となり、多くの街が水没することとなりました。

 本作では陽菜を人柱にしてもとの天候を取り戻すか、陽菜を取り戻して東京を雨の降り続ける街とするかの選択肢が帆高に突き付けられます。そこで帆高は後者を、陽菜と共に生きる世界を選ぶことになるわけですが、数年後、そのことに責任を感じる帆高に対して、ある人物が人一人に世界が変えられるわけが無く、責任を感じる必要も無いと伝えます。

 今作において新海監督はセカイ系特有の世界の運命を背負ったヒロイン問題について、そんなものをヒロインと主人公に背負わせるな。世界の運命にはその世界で暮らすもの全員で取り組めという、ある意味セカイ系全否定とも言える、正論オブ正論の回答を出してきました。

 ここまでくれば Weathering With You に新海監督が「貴方とともに困難を乗り越える」以上の意味を込めているのは明らかです。Weathering With You の真の意味、それは、「みながともに困難を乗り越える」ということなのでしょう。 

 

 

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